座談会 「鋳造技術の伝承を考える」
―― 北海道鋳物の新たな可能性を探って ――
出席者
桃野 正 司会進行;室蘭工業大学)
井上 一郎(褐合金製作所)
鴨田 秀一(北海道立工業試験場)
竹花 奎一(トヨタ自動車北海道梶j
津村 治 (鞄本製鋼所)
野口 徹 (北海道大学)
東川 敏文(北海道経済産業局)
大笹 憲一(北海道大学・支部会報編集委員長)
「鋳造技術の伝承を考える」
大笹編集委員長: 本日は、皆様にはお忙しいところお集まりいただき、ありがとうございました。今日の座談会は、この秋に開催される日本鋳造工学会の全国大会に合わせて発行を予定している支部会報の記念特集号の関連で開催させていただきました。これまで、北海道支部は全国大会や周年事業の折々にあわせて、会報についても記念特集号を発行してまいりましたが、今回も会報第131号を全国大会記念の特集号として発行することになりました。このような特集号の企画を振り返って見ますと、そのとき折々の鋳物作りを取り巻く話題や業界の関心事をテーマにした座談会形式の企画が大変に好評で、今回もこれにならって座談会を企画したわけですが、今回は委員会で議論をしまして、昨今の少子・高齢化や2007年問題ということが世間ではクローズアップされていることを背景に、今回の座談会のテーマにつきましては、仮題として「鋳物作りの技術伝承を考える」とさせていただきました。ただ、今日の皆さんのお話の内容によっては、このテーマを変えることもやぶさかではありませんので、これに縛られることなく、どうぞ自由にお話しください。 皆さんからの忌憚のないご意見を伺って参りたいと思います。今日は、室蘭工業大学の桃野先生に司会進行役と言いますか、お話しを進めていただく役をお願いして、お引き受けいただきましたので、これからは先生にお任せをしたいと思います。どうぞ、よろしくお願いいたします。
桃野: はい。今日の座談会の内容は、後日、編集委員会が原稿を作ることになっているそうですので、皆様にはどうぞ安心してお話していただきたいと思います。さて、今日の座談会は「鋳造技術の伝承」ということをテーマにいただいていますが、編集委員会の方から、今日の話題の参考として、いくつかの課題をいただいております。「いま鋳物作りに求められていること」、「鋳物作りの昔と今」、「鋳物の品質をどう高めていくか」、「次世代への技術継承をどうするか」、「鋳造技術を担う人材をどう確保するか」、「将来へ新しい鋳物作りの展望」ということでいくつか話題が用意されているわけですが、特に後段のところはいま取り掛かろうとしている「中核人材育成事業」とも関連するかと思います。まず、取っ掛かりとして、「鋳物作りに求められていること」ということで、鋳物作りの最前線でご活躍の業界の方から現状をお話ししていただきたいと思います。北海道ということで限られても結構ですし、全国、あるいは世界の中での日本の位置づけという視点でお話していただいても結構です。そうですね。 それでは、鞄鋼キャスティングの津村さんからお話いただけますでしょうか。
北海道鋳物の生産動向
津村: 我々が作っておりますのは大型の鋳鋼品ですが、大型鋳鋼の業界に限って言いますと、まずコストですね。「安く作って欲しい」。それと、「早く作って欲しい」、この二つです。鋳物そのものに対して、「こういう品質が欲しい」とか、「こういうものでなければならない」というような要求よりも、我々が作っているものは決まっているんですけれども、とにかく「いくらでできるか」、「安く」ということが一番強く言われます。それと、もう一つは、本当に高品質で信頼性が要求される物については、それを満足するのに、お金のことは必然的にかかるというのは仕方ないというもの。両極端ですね。
桃野: 日本製鋼所さんでは、納期を早く安く作って欲しいと言われても、それを、いま海外に日本製鋼所の技術をシフトできるかというと、できないわけですよね。そういう意味では、無理難題を言われても困るんでしょうけれども、「安く」ということでは、原材料の高騰はかなり厳しいでしょうね。
津村: はい、作っている製品に占める原材料の割合がけっこう高いものですから、原材料が高騰すれば、どうしてもコストに跳ね返ってきます。それを、いま日本鋳鍛鋼会など、業界を挙げて材料費の分を上げてもらうように、ユーザーさんはじめ、いろんな分野にお願いをして、一部は認めていただいているところもあります。鋳鋼の業界でいうと、7割ぐらいは“値上げ”ということでは認めてくれています。ただ、要求した金額が100%認められるかということになると、それは別です。
桃野: それでは、トヨタ自動車北海道鰍ウんは、アルミダイカストを中心に鋳物を作っておられますが、いかがでしょうか?
竹花: アルミダイカストでは、アルミ地金のコストウェイトが高いため、低価格原材の使用や、歩留り向上、薄肉化など、幅広い角度から取組んでいます。また、一方「生産をどうやって維持していくか」も課題です。といいますのは、金型や設備、多種類の資材を使用していますので、それらをどこから調達して、どう組み立てていくかということです。北海道に生産拠点を置く当社は、本州の企業から調達した設備を、本州の企業にメンテナンスをゆだねる形で当初スタートしました。しかし、そうしていくと、どうしても、コスト的に不利で小回りが利かない限界がありました。最近は、設備予備部品の製作や設備メンテナンスを道内の設備メーカーさんにお願いすることに力を入れています。
桃野: 新しい工場の増設も進められているようですけれども、人的な確保の方は大丈夫なんですか?
竹花: お陰様で、道内の豊富な人材を採用させていただいています。
桃野: 先日、新日鉄の設備を担当している方に聞いたら、設備関連の企業が、北海道内にもどんどん育っていると言っていました。大変に良い動向だなと思います。さて、北海道の鋳物全体をお尋ねするということで、褐合金製作所の井上会長にお話いただきたいと思います。
井上: 私どものところは、寒冷地で使う“水抜き栓”、“不凍給水栓”を主力製品とし生産しています。そのバルブと周辺機器に加えて、制御機器も含めて製品として出しています。その一番の核になるのは、銅合金で、かつてはBC6と呼ばれていましたが、銅が85%、錫、鉛、亜鉛が5%ずつ。2年前に鉛を使ってはいけないということになりまして、鉛を使わないか、鉛が入っても水に接する部分を表面処理して、鉛が水の中に溶け込まないようにするということになりました。この辺は、細かい話になるので、割愛させていただきますが、最近のことで言いますと、原料の中でも油が値上げされまして、原材料の値上がりが激しいですね。私たちは、ユーザーに対して“10”値上げさせて欲しいと言ってもですね、「ダメだ」といわれて値上げができない。中には1か2だったら、まあ仕方ないかということで、原料の値上げ分を値段に転嫁できないですね。ハウスメーカーさんが道内も含めて私どもの大きなユーザーさんですが、なかなか厳しいものがございます。 そのなかで、材料の値上がり分を価格に転嫁できない分どうするかということになれば、工場の中で生産の合理化をやる、材料は安いところから見つけてくる、そして一番大きいのは人件費ですから、人手をいかにかけないようにしてやるかということを考える必要があります。今から20数年前に、もうそろそろNC旋盤も落ち着いてトラブルも少なくなったということで機械を入れました。コストを下げるために工場を24時間動かそうということで、忙しい時期には24時間、土日ぶっ通しということもありました。最近は、いいロボットが出てきてますから、NCとロボットを組み合わせて、機械化できるところは、うんと機械化する。組み立ては、なかなか機械ではできないので、ここは人海戦術でやらなければいけません。それと、もう一つは、お客さんとのやり取りのなかでは、注文をいただいて、すぐに納入しなければならない状況があっても、生産能力に制限がありますから、冬場の閑散期に作ってストックしておいて、注文が立ち上がったときにすぐ納品できるようにしなければダメです。納期が間に合わないとライバルメーカーに取られてしまいますから。 我々が納品する先の水道関連の小売店やハウスメーカーさんも、いま非常に厳しい状況です。ひとつは、住宅がかつてのような建ち方をしなくなりましたですね。今年になってからの統計を見ますと、注文住宅が動き始めたといわれていますが、まだまだ弱いところがあります。
桃野: はい、ありがとうございました。金属の種類によっても随分と動向が違うようですね。あるいは、生産方式によっても受け止め方が異なるというお話でした。こういった話を伺っての感想、あるいはご意見などいかがでしょうか。
野口: 鉄鋳物を生産している鞄n辺鋳工所、札幌鋳物工業鰍ニいったところからもお話が聞けると良かったんでしょうが、想像をするに、鉄系鋳物の生産量は今は回復してきているのかなという感じを受けますね。それから、「安く、早く」の製品というのは、どこも同じなのではないでしょうか。ただ、「安く、早く」という話がありましたけれども、恐らくそれは、必然的に「一定のクォリティを確保した上で」という大前提があってのことと思います。本当に「形だけあればいい」という鋳物は、もはや国内に出回ってはいないはずです。ですから、“対応性の早さ”と“一定の品質”を確保した上での話でしょう。鉄系鋳物として一定の出荷量を確保しているのは、特色ある鋳物、差別化された鋳物製品を出せるところ、そして、日本中全体で物事が非常にスピーディに動いているんで、一定のクォリティを確保した上で“対応の速さ”というのが一つのポイントでしょうね。
井上: かつては、水道管材を扱っている代理店さんが一定の在庫を持っていたんです。わが地域では1月、2月ではこれだけ必要だろうという見込みがありました。いまはそうではありません。例えば、いま注文を釧路からもらっても、夜中にトラックが走って明日の8時には現場に着いているんです。ですから、在庫を持たなくていい。だから、なおさらスピードを上げてすぐに出せるようにしなければなりません。
桃野: 在庫の管理という点では、いわゆる私たちが通称トヨタの「カンバン方式」と呼んでいる方式が代表的ではないでしょうか。この方式では、どれくらいの在庫を、持つものなんでしょうか。
竹花: 在庫は付加価値を生まない「ムダ」であり、在庫「ゼロ」をめざすべきと考えています。現状の生産技術レベルでは、加工や運搬に一定の時間を要することを考慮して、後工程にスムーズに供給するレベルの「最小限」の在庫としています。また、鋳造、機械加工、組み立て等、多くの工程を経て部品を作り上げるための品質保証がもう一つのポイントです。このため、100%良品を生産する工程づくりとともに、自工程で品質を保証する「自工程完結」による保証体制をとっています。
桃野: 最近は、各地で大きな地震なども発生していますが、そういうアクシデントが起きることも想定して生産を計画されるんでしょうか。
竹花: 10年に1度起こるかどうかという自然災害に対しては、可能な限り設備対策を講じていますが、限界があります。このため、万が一発生した場合、被害を最小限に抑制する方策ならびに素早い復旧措置を講ずるよう、備えています。
鴨田: 質問なんですけれども、道内でも大量生産のところと受注生産的なところとあるんでしょうが、いま鋳造品の生産量というのは増えているんでしょうか。ひと時、東南アジアや中国への流出ということも言われていたようですが。
野口: 統計で見ると北海道の鋳物の出荷は減っていると思います。
鴨田: 北海道の鋳造品に関しては減っているんですか。
野口: 全国の統計で言いますと、鋳造品の生産は2003年、2004年の出荷トン数は少しですが伸びていますね。北海道は、伸びてるとしても微増でしょう。地域的には東海地方、名古屋圏がかなり増えています。鋳物は自動車関連の占める比率が大きいですから。
鴨田: 北海道の鋳物の出荷先というのは民間だけではなくて、かなり公共的なものが多いわけですよね。公共事業自体が大幅に減っているわけですから、そういう中でそれほど減っていないというのは、違う分野に展開していているということで、むしろ良い傾向にあるということなんでしょうか。
東川: 北海道の場合は、企業数が少ないので一概に言えないのですが、公共工事は間違いなく減っています。個別の会社でみれば、公共関連以外の新しい分野で生産を増やしているイメージです。
井上: 小樽でも鞄c中工業さんが下水道関係のマンホールの鉄蓋などをずっと作ってきていますが、「もう、これは終わってしまった」と言います。何か新しい物を作らなければいけないと考えていますね。
東川: 道内の鋳物関係者が開発局と協力して、アルミ製の橋の高欄に鋳造支柱を使う事業を行われていますが、新たな取り組みとして評価できると思います。
井上: 15年、20年前から「景観鋳物」ということが言われて、フェンスだとかいうものを小樽の竃リ下合金さんが取り組まれて『景観鋳物』に特化してしまいました。「部品を作っていたのでは商売にならない」と言って。そういう鋳物はデザインが大事ですね。しゃれたデザインが付加価値になりますから。
野口: 北海道の鋳物の生産を見ると、大雑把に言えば、一業種一社、あるいは1.5社乃至2社というところでしょうか。だから、統計にならない。ばらつくんですよ。東海だとか関西では、鋳物工場が数百社もあって、似たようなものを生産している会社がいっぱいあるでしょ。ある程度の平均値が出るんです。北海道の場合は、傾向が見えにくい。
東川: ところで、鋳物の場合は、今もトン当たりのいくらという見方をしているのでしょうか。生産トン数よりも付加価値がどれ位つくかの視点が大事だと思うのですが。
野口: まあ、統計上、便利だからでしょうね。でも、何トン生産しているかということになると、私や桃野先生がやっているような薄肉の鋳物を作ればつくるほど、生産量が小さくなってしまうわけです。
鋳物の付加価値評価
東川: そうですね。鋳物は薄肉化、高強度化、精密化が進んでいくと思うのです。そうすると、生産トン数だけを指標として話をしていると、会社の本当の実力が見えないのではないかと思うのです。
桃野: そういう意味では、日鋼さんも軽くはなっているんですね。
津村: ええ、設計担当に協力する格好で、軽くする方向には行っています。我々は鋳鋼ですけれども、鋳鉄関係では問題になるようですね。軽くすると、ひと枠当たりの重量が減ります。生産する機械は、ひと枠当たりのタクトで時間が決まっていますから、それだけ単位時間当たりの生産量が減りますね。いま、お客さんの方からは、薄くなって軽くなって、キロ当たりいくらだから、金額はこんなもんかなと言われるんですけれども、ひと枠当たりの工数やコストは余計かかるわけですね。それを差し引きして考えると、結局はお客さんの要望で軽量化して、コストをかけて、代価は下がるという現象が出ていますね。鋳鉄関係は皆さん困っているんじゃないでしょうか。
野口: 随分前になりますが、鋳物の見積もりに関して北大の岸浪先生らと一緒になって、“機能係数”のようなもの、鋳物の場合であれば形状の複雑さ度合いを係数として掛けるような見積もりシステムができないか検討したことがあります。形状の複雑さというのは、一つのファクタです。それと例えば、トータルの表面積と体積の比で評価するとか、いろんなやり方があるんです。
東川: どうしてこのような話をしたかと言いますと、鋳造メーカとユーザで同じ物差しがあるといいなと思っています。付加価値がどれだけ付いたかを金額で表すのですが、発注側と受注側の物差しに違いがあるのでないか。お互いに機能やコストの評価がきちんとできるシステムがあり、お互いが納得できるところがあればよいと思います。
井上: 私たちの製品の場合は“市場価格”というのがあって、「この水抜き栓は末端価格で1万円」というように決まっているので、そこから逆算するんですね。そこで、どうやって利益を出すかということで、材料費がいくらで、工数がいくら掛かってということで検討していくわけです。その製品がポピュラーになってくると、ライバルとの競合になるので、今度は値段が段々下がってくる。9千円、8千円、7千円と。その次に何をやってくるかというと、新しい商品を出すことを考える。新しい機能をつけた商品、あるいは施工するときの作業を楽にするとか、長持ちするとか、そういうものをつけて出すときに値段を変えていくわけです。そういう作業をなるべく早くやるようにしています。新製品で一番初めに値段をつけるのが難しい。コストはぱっと見たら判ります、毎日やってるから。「これはいくらぐらいだな」というのは、大体は外れないですよ。
鴨田: 光合金さんはシステムの開発の方はやられているようですが、最近は“鉛フリー”なんかが話題に出ていますよね。例えば、BC6などに関して、材料そのものの開発を独自にやろうというような話はなかったんですか。
井上: それは、やるつもりはなかったんです。鉛がない材料ということになると、これは別なJIS規格が要ることになるので、今後JISで決められていくだろうということもありました。それと、鉛が入っているんだけど、水に接するところだけ取ってしまうというアイデアと、二通りの考え方があって、うちは、そちらの方向を選択する判断をしました。それは、リサイクルするときに鉛が入っているものが来るわけですよね。もう片方で、材質を変えた時に切削加工の条件が変わってしまうということがあるんです。そういうことに対応したところの意見を聞いてみると、一般的に「早くやりすぎた」という感想を言うんですね。経営者ではないですよ。技術者レベルでの話として「先に走りすぎたな」と。鉛がなくなっていくというのは世界の流れで、釣りの錘も鉄にしようかということになってるくらいですから。
桃野: 北海道支部としては、特にそういうようなテーマの研究会をやって来ませんでしたが、今からでも遅くはないですね。
井上: それについては、非鉄金属鋳物協会で委員会を作って、様々なところからいろんなデータを出して、大学の先生にも入ってもらって、皆でテストしてるんですよ。うちも、そういうテストのいくつかを分担して来ました。
桃野: 今回の秋の大会のオーガナイズドセッションに「鉛フリー」の課題が取り上げられていましたね。さて、今の話とも関連しますけれども、鋳物の品質をどう高めていくかということについて、話題を進めていきたいと思います。鋳物の品質を高めていくというのは、今の時代で申しますとコンピュータの利用ということも一つの視点かと思います。もちろん、いまも話題になりましたが“人材育成”ということとも関係するかもしれません。
北海道鋳物の品質を高めるには
野口: 品質ということで一つのアプローチの仕方はやはりISO等に代表される“品質管理”にどう取り組んでいるかということでしょうね。例えばISO9001の取得ということに北海道のいくつかの企業も取り組んで、認証取得をされていますね。環境ならISO14000でしょうが、まず、そういう“生産管理”の手法なり、考え方をベースに、基本的なものを積み重ねていってからその先を考えるということではないでしょうか。
鴨田: 品質を今より上げるというのではなくて“安定させる”ということでしょうか。最低限のベースを維持すると言ってもいいかも知れません。
野口: ISOの基本になるのはドキュメンテーションですね。それができれば、物の見方がしっかりしてくる。名古屋あたりの鋳物工場は、この辺がしっかりしていますね。
鴨田: やはり、どういうところに納めるのかということでしょうね。例えばトヨタ自動車に佐藤鋳工鰍ウんが品物を納めるんだったら、そういうことができていなければ仕事にならないわけですから、目標というか、ターゲットがちょっと違うわけですよね。
野口: それは、ロット数によっても違うんですよ。トヨタのような大量生産で、ロット数の非常に多いものの生産管理と、一品生産の場合の管理とは違うわけですからね。どちらかというと量産物の方が管理しやすいという面もあるんですよ。
鴨田: 私もそう思うんですよ。一品料理の、受注で様々な注文が来て生産する品物について、どうやって品質を保証するかということは、かなり大変なことになると思います。
野口: 野口 北海道の場合、本当の量産というのは少ないですね。それと、ベースになる不良率が違うんですよ。恐らく自動車関係だと1%〜2%の不良率でぎりぎりのところですね。一般の鋳物なら5%程度あるいはそれ以上の不良率を見込まなければならないものもあるでしょう。
井上: 私たち、砲金でバルブを作っているんですが、3%の不良率まで下げることができたら、それ以上手をつけないということにしています。新しい型で、新しい製品を作るときには10%〜15%の不良が出てしまうんです。それをいかに潰していくかということですね。2年前に、それまでシェルモールドで鋳物を作っていたのを生型ラインに変えたんです。生砂にしてみたら様々な問題が出てきた。例えば、NC旋盤で削ると、砂が刺しているのか刃物が傷み易くなって、それに関連していろんな問題が出てきた。私が3%と申し上げたのは、鋳物を起因とした不良率ですが、それ以上やってもコストとのバランスを考えたときに合わないだろうなと思います。我々が作っているのは小物ですし、中空で肉薄ですからね。3mm〜5mmの間で、それでいて17.5気圧に耐えられるものでなければなりませんから。
桃野: 日本製鋼所さんは、多品種、少量というんですか、そういう生産プロセスは道内の中小の鋳物工場の形態としては多いんでしょうけれども、何か品質を高める、しかも多品種であるという点では、一番先頭を行っているのではないでしょうか。
津村: 鋳物の品質をどう捉えるかということでしょうけれども、その前提としてISO9001で代表される品質保証システムは、物を生産するための土台として必要なものだと思います。ISOシステムは世界的に求められてきていますし、言ってみれば“戦略”の一つであるかもしれません。それはそれで、乗っかっていかなければなりません。その上で、我々が作っている“部品”としての品質が一つあると思います。もう一つは、ものづくり技術も含めた、技術とか管理ですね。そういうものを含めて“品質”ということと、二つの捉え方があると思うんです。部品としての品質は、材料として十分に機能するかということ。部品ですから、形ですとか、欠陥ですとか、そういうものに対して十分な機能というものをいかに高めていくか。これらは、もちろんコストとのバランスで見ていかなければなりません。無欠陥のものを作るのが必ずしも一番良いとは限りません。もう一つは、製造コストや品質管理を含めての品質ということです。 今まで我々の一品生産では、設計担当の人に「鋳物を作るにはこういう技術で」、「こういう作り方をするから、こういうふうに設計していただくと非常に安く、早くできるんですよ」というようなことを一生懸命に説明するわけです。言ってみれば、作る側からのわがままなんでけれども、それも設計も含めた品質という意味では、一つの“物の品質”というように捉えられると思います。さらに進めて「鋳物として、こういうものができます」、「今までの作り方ではできなかった、こういうものができます」という提案をすると、設計さんが部品を含めて全体の装置なり、機械を設計する時に、機能を優先することができるでしょうし、部品を設計するときの自由度が増して、コンパクトに設計するような工夫もできるようになります。そういうような“技術を含めたような作り方”をいかにアピールしていけるか、それも鋳物の品質のひとつとして差別化につながるのではないかと考えています。それにつながるようなことをやって行きたいと思います。
野口: 鋳鉄鋳物でも、ものづくりスタッフと設計とのジョイントが絶対に必要なんですよ。好き勝手な図面を書かれて「これを鋳造してくれ」というのは絶対ダメです。鋳物屋さんが設計屋さんに「ここはこういう理由でこのように変えろ」という指示が与えられる、それだけの力量を持つことが大事です。それは、何十年も道内の鋳物メーカーと一緒にずっとやってきました。今では、機械メーカーから信用されて設計まで任されるまでになっているところがあります。
井上: 自分のところは社内で設計をやってますから、しょっちゅうフィードバックができる体制になっています。はじめは、設計したものを「そのまま鋳物を作れ」というところがありましたけれども、それは絶対ダメなんですよね。それやってたら品質は落ちるし、お釈迦はできるし、本当にコストが上がってしまう。だから、なるべく“湯がどのように流れていくか”ということをイメージしながら設計してもらうんです。今は、コンピューターでそれができるんですね? 我々はまだそこまでいってないんですが。段々と形状が複雑になっていく。かつて三個を組み合わせていたものを、一つに鋳ぐるんで作るということもやっています。中子もあちこちから入れて… エンジンはそうですよね。よくこんなものを作るなというくらいエンジンブロックは複雑ですね。
野口: その点で、先ほど桃野先生が言われたように、コンピュータ・シミュレーションの応用というのは避けられないと思います。もう一つ、技術をどうやって伝承するかに関わるんだけど、“鋳造”というものと“機械の機能設計”というものと、両方を見渡せる人の育成がきちんとできなければいけません。
井上: 技術の伝承ということなんですが、今から十数年前に気づいたのは、大学に冶金をやるところがなくなってしまった。これは危険だって感じて、あるとき、室蘭工大の先生に「金属を溶かしたことのない学生を出してもらっては困る」という話をしました。象徴的なものの言い方なんですが、つまり「現場を重視してやってくれ」というお願いですね。最近では、あちこちの工業大学の先生や高専の先生が僕の顔を見て、「井上さん、うちの子は金属を溶かしてるよ」って言ってくれるようになりましたので、「これはよかったな」と安心してるんです。これは、大学にも責任があるかもしれないけど、文部省のやり方に問題があるなっていう感じがしますね。鋳物は“ものづくり”のベースですから。歴史で言えば4千年、4千5百年。それを国外の人件費の安いとことでやればいいという発想は困る。
次世代への技術継承
桃野: さて、話題は技術の伝承の方にシフトしていると思います。それぞれの企業で“人材の育成”、あるいは“技術の継承”に関連してこういう問題があるというようなことがあればお話していただこうと思います。世間では「2007年問題」ということで、いわゆる団塊の世代が一気に定年を迎えることによって、わが国のものづくりに深刻な影響を及ぼすのではないかということが懸念され、経済産業省でも製造業の技術継承を支援しようという取り組みを進めています。これまでの社会的な流れの中で、私が感じていることを鋳造工学会誌にも書かせていただいたんですが、やはりバブルのころ多くの工学部の学生が銀行にいったり商社にいったりして、彼らは今頃いったいどうしてるのかなと心配な向きもあるんですけれども、それはともかくとして、工科系の職種に進む学生が極度に少なくなったことは確かです。今の40歳代 ―― 中核となるべき人たちがいなかったり、途中で辞めたりして、各企業の中ではエアポケットになっている。 その次に、今度バブルがはじけてしまってどうなったかというと、極度にリストラがはじまって、また後継者が不在 ―― そういうことが延々と続いて、いま30歳代、40歳代をきちんと後継者と位置づけて、将来を見据えてつないでいくにはどうしたらいいかということは大きな問題としてあるわけですね。それは、教育分野の責任もあるだろうし、それから経営者側にも長期的な視野に立った対応が適切だったかという反省点もあるでしょう。そんなことを踏まえながら、この中核人材育成、次世代への継承ということに話題を移していきたいと思います。
井上: うちの会社は定年制がないんですが、61、2歳でやはり皆体力がなくなって辞めていくんですよ。それで、気づいてみると、この4、5年の間に20人近い人間が歳で辞めていくことになりそうなんですが、“団塊の時代”というのはわが社にも影響あります。その先、どうやっていくか ―― やはり、今いる人間を教育していかなければならないでしょう。それと、新しい人を採る時に、ただ働けばいいというのではなくて、あるレベル以上の基礎学力がある人を採るように心がけて来ました。「ここで我慢するか」という人間は採らないで、もうちょっと探してみようと。ですから、Uターンが多いです。そんなことで、人材育成という問題には力を入れてきましたし、今回の中核人材育成プロジェクトには是非、鋳物工場にいる人間だけではなくて、その関連のある人たちも順次出していきたいなと思っています。いま、3人くらい候補にあげて、その中の2人ぐらいを選び出して、出したいと考えているところです。
津村: “2007年問題”ということでいえば、中間層 ―― 33歳くらいから45歳ぐらいまでが、ほとんどいないんです。いま実際に仕事を率いている人たちが定年でいなくなったら、どうやって引き継いでいくかというのが一番の問題ですね。いま、それを避けるために、まず人がいない事には話しにならないので、協力会社の人材を投入する場合は30歳代の後半ぐらいの年代の人を入れてもらうようにしています。その人たちに早く仕事を覚えてもらうために、一つは鋳物づくりの全体のシステムの中で勉強会、検討会を必ずやるんです。それを3つくらいの段階 ―― スタッフだけ、スタッフと作業者を交えて、作業者全員に入ってもらって ―― というように分けて、「これ作るときにはどうするのか」というような検討会をやっています。もう一つは、いろんなものを標準化していきます。標準書も文書だけで書いたものではなくて、ポイントになる物を写真に撮って、それに文章を1、2行で書いたものをたくさん作って、それを現場に貼っておいて皆が見えるようにしておきます。 それと、作業をするチームを作って、その班ごとにベテランと若年者を必ず入れて混在させ、その中で作業して、そこで覚えていく。しかし、最近はそれをやっていてもなかなか追いつかない。特に、特殊な製品 ―― 何年かに一回しか作らない物もあるので、とってもそういうことだけではだめなんです。それでもう、各グループのリーダーになる人を若手に置き換えてしまうんです。確かに置き換えられた30歳代の若手はプレッシャーで大変なんです。それをサポートする熟練の人をつけて一緒に作業をするという方法で進めています。
桃野: 随分と示唆に富んだ内容が含まれていると思います。若手のモチベーションを常に刺激しながら、若手が取り組みやすいようにする工夫、“ビジュアル化”というのは非常に大事ですね。世代によって、本で学ぶ人と画像で学ぶ人が分かれてきましたから。トヨタさんなんかは若い人が多いというイメージなんですが。
竹花: 私どものところで言いますと、平均年齢が30歳というところでしょうか。若いということは、行動力にあふれている半面、実務経験が不足しがちになります。先ほど、品質の話題に補足しますけれども、ダイキャストというのは、水冷した金型を用いて一瞬で鋳物を作るプロセスで、金型の中で起こっている現象を直接観察することはできないため、どうしても経験と勘で行動し、結果の良し悪しで判断をせざるを得ない。そういうことで、効率の悪い仕事になりがちです。コンピュータシミュレーションも登場していますが、鋳造条件や物性値の把握ならびにITの知識が必要であり、現場の問題解決の道具として使いこなしている例は多くありません。現場技術者に求められることは計測化であり、製造過程の様々な状況をできるだけ数値計測して、それをもとに物事を考えていくことにあると考えます。さらに、計測データの数字の羅列を眺めるだけではなく、それを効果的に整理・解析する、いわゆるSQCの手法を用いて科学的に分析することも力を入れていきたいと考えています。 品質のもう一方の“魅力的な技術”ということで私どもが指向しているのは、先ほど話題になった“薄肉化”です。自動車のボンネットを開けると解りますが、エンジンルームの中の寸法は、10年前とあまり変わりませんがが、部品の数がどんどん増え、ほとんど隙間がなくなりました。私どもが作っているオートマチックトランスミッションですと、左右の前輪の中央に配置されますが、タイヤの幅が拡大するとともに、エンジンも高性能化したため、オートマチックトランスミッションの全長を縮めないと収まらない。エンジンルームの空間が限られているため、ダイキャストの薄肉化が求められるようになり、金型の設計・製作も、緻密なものになってきました。もう一つは、鋳造欠陥の防止があります。鋳造欠陥はオートマチックトランスミッションの油洩れにつながる不具合であるため、鋳造欠陥対策を機敏にやり、健全なダイキャスト品を作る、そういう工程管理にしなければなりません。 工程の取り扱いの中でオートマチックトランスミッションの表面に油がついているだけで、車両工場から「これ、油漏れしてるのでは?」と、油漏れしていないにもかかわらず「指摘」されることもあります。このため、表面の汚れまで気配りした製品作りをしています。人材育成ということに関連するかも知れませんが、技術者というのは直接自分の手を汚していろんな仕事をしながら技術を身に付けていくものと入社当初に教えられ、多くの失敗や回り道とともに貴重な経験を積みました。一方、スピードの時代の昨今は、入社したら“即戦力”として期待されるようになりました。多種・多様なことを早く進めようとすると、外部に依頼するのが最も手っ取り早いということになります。そうすると、伝票をいかに早く書くかということや幅広く顔が利くということが重宝され、鋳造そのものに直接自分の手を汚す経験を積まないままになりがちです。事務能力や管理技術も大切だけれども、ものづくりの固有技術にも磨きをかけ、問題解決能力のある技術者を育てて行きたい。
桃野: 今の話には思い当たる節があって、学生時代に手を汚して卒論をしていないと、卒業後の就職先としてそういう企業を好まないですね。やっぱりコンピュータに向かう仕事を指向してしまう。そういう学生を具(つぶさ)に見てみると、“自分を守る”という基本的な姿勢がやや欠けている場合が多いです。工学が寄与するというか、工学を目指すところというのは、もともと、自分を守る、もちろん他人に対しても優しく守るという姿勢がないと、やっぱりものづくりもできないし、学生も製造業から離れていくというのは、私の印象として持っていたんです。伝票書きに走るというのは、我々の責任が大きいですね。奇麗事で済ませてしまう。やはり、手を汚す経験というのは、ある年代のある時期にきちんとやらなければいけない。30歳代過ぎてから「さあ、やれ」と言っても、言われた方も困ってしまうでしょうから。
野口: そういうことについて、経済産業省はどういうふうに考えるんでしょうかね。もともとは文部科学省の問題でしょうが。
東川: 小さい頃から“ものを見る”とか、“手を使う”とかをしなくなってきている。親は危ないからといって、子供にそのような経験をさせない。子供は、手を汚さなくなるのが当たり前と感じているのではないでしょうか。企業の息子さんが跡継ぎをするのは、物心が付いたときから、親の働く姿を見ていいたり、傍らで遊んでいたり、そんな経験が影響しているのではないかと。また、高校や大学の先生方も、実際にものづくりを経験していないので、実習が大変だと聞いたことがあります。教える先生方が変わらなくてならないのですが、実際には難しい。それでは、どうするかと言うと、ものづくりの現場で働いている人やOBに教えてもらう。それで、ものづくりの楽しさ、難しさを子供達に感じてもらう。そのような環境をつくることが、将来のものづくりの担い手をつくる上で大切だと思います。
野口: 今度、経済産業省は「中核人材育成事業」を募集しましたね。あれの背景にどういう論議があったのかなということをちょっと知りたいんですけれども。
東川: 2007年問題です。いわゆる団塊の世代が2007年以降、大量にリタイヤしてゆくことが判ってきたとき、その人達が固有にもっている“ノウハウ”などが、継承されずに消えてゆくのではないかとの恐れを抱いたのです。しかも、一企業だけでなく、業界全体がその影響をうけるとしたら、日本の競争力の源が危ないのではないかとの問題意識がでてきたのです。
野口: 技術の伝承をしなければならないという危機感をもったということでしょうね。今回の事業でかなりの数の課題が採択されたと聞きましたが、どういった分野が採択されたんですか。
東川: 全国で36件が採択されましたが、実に多種多様です。業種や業態では、鋳物や金型の技術者の育成を目標としたものもあれば、半導体・ディスプレイ産業、ナノテク、医療福祉機器、デジタル情報家電等々です。因みに、北海道では3件採択され、桃野先生がプロジェクトコーディネータをされる道内鋳物産業の中核人材育成事業の他、農業機械の設計製造技術者育成事業、機械金属加工業の生産管理人材育成事業が採択され、各々2年間で事業を行います。この事業により、道内ものづくりの基盤といえる人材が育ち、企業の第一線で活躍して頂ければ、北海道のものづくりの未来は明るいと思っております。
人材教育――教育機関の現状と役割
鴨田: この事業では、2007年問題ともう一つ、敢えて言わせて頂けば、大学が企業に役に立つ教育をしてくれていないのではという問題意識も、多分あると思います。自社で、会社の個々の企業さんが、入ってきた学生さんを人材育成するような余裕もないし、大学がもっと役に立つ人材を作ってくれということもあるんだと思います。
野口: 私も2007年問題の当事者ですが、私の後継者がいるかと言えば、いませんので、人材は継承されません。それで、文科省の施策云々ということがあるんですが、大学で、企業に行って即戦力になるような人を育成できるかというと、方向は全く逆です。私ども、学生の時代、かつては溶接もあった、鋳造もやった。切削も体験しました。いま、辛うじて残っているのは何でしょう? 機械加工も残っていないんじゃないですか。当然、溶接や鋳造はやらなくなりましたね。しかし、もっと恐ろしいことは、機械工学科の学生が図面を描いたことがない。それから、ものに触ったことがない。金属材料の引張り試験もやったことがない。硬さを測ったことがない。そういう学生がどんどん出ます。そういうタイプの科目やカリキュラムは19世紀、20世紀のカリキュラムとしてやめさせられる。だから、どんどん絵空事の方向へ進んでいく。それで、カリキュラムの会議なんかで、工学ですから物に直結した授業をと主張しますけれども、「もう先生の時代は終わりましたので、お引き取りください」ということを言われる。 おそらく、私は、そのいわゆる“20世紀型”の教授の最後になるでしょう。「図面を描かせなきゃダメだ、それもCADじゃダメだ。ドラフタと鉛筆で」と言い続けていますが。それじゃ、これから何を教えるかというと、「微分方程式」や「量子力学」です。物だったら何を教えるか、「鋳物」じゃなく、「人工衛星」や「宇宙ロケット」、材料では「鉄鋼材料」じゃなく「カーボンナノチューブ」ということになります。要するにそれは“格好のいいトピックス”の羅列ですよね。どんどん変わっていきます。それも、全国の大学で。おそらく、何年か経ったら鋳物の図面を読める人は大学にはいなくなります。困ったことです。
鴨田: 今は、辛うじて、現場で物を触っている、そういう人、経験を持っている人もいて、大学もそういう教育してくれた人がいて、ある意味でお互いに補完しあっているのかも知れませんけれども、それが、ものづくりを知っている人がいなくなるんですね。大学とかが、わが国のものづくりをどうやって支えていくことになるかということになると、これは大変なことになるかもしれませんね。
野口: ものづくりは、高専に期待するしかないのかなあ。
鴨田: ある先生が、面白いことを言っていました。高専か工業高校だって、大学は期待できないって、これからのものづくりに関しては。だから、そこをこれからいかに教育するかということを言っていますね。
野口: それはなぜかと、大学の先生は、とにかく論文書いてないとだめで、論文書いている人だけが教授なり助教授なりに採用される。それも、日本語の論文ではダメで、英文の論文書を書かないと。そして、最先端でないとダメなんですよ。鉄鋼材料の論文をいくら書いても採用されない。
鴨田: 幸いなるかな、高校もいま生き残りですから。山形県の例を出していましたけれども、山形の小さな町の工業高校があって、そこが隣のまちの工業高校に吸収合併されるかもしれないということになったそうです。地域の企業さんたちが「それでは困る。何とかその高校を特色のある高校にして存在させよう」ということで進めて、何をやったかというと、“資格”を取らせることに力を入れたんだそうです。高校生が資格を取るために一生懸命に頑張る。技能オリンピックにも出場させる。そうした、独特の、企業よりの教育を続けているんですね。それで、生き延びて、他の高校からもモデルケースとして見られているんだそうです。そういう意味では、今、生き残りをかけていますので、高校も、高専も。チャンスなのかもしれませんね。人を育てるということについて、大学はやれないですから、逆に。
野口: 大学は、独立法人化しましたでしょ、そうすると競争が激化するなかで、何で評価するかというと、論文なんですよ。そこで鉄鋼材料の教育を一生懸命にやっても評価されない。そうしたタイプの研究では、まず生き残れないでしょうね。
大笹: 大学が法人化しまして、研究で求められていることからいうと、鋳造だとか、鉄鋼材料をやると、科研費・研究費が当たりません。まず、野口先生が言われたように、論文の数と、いくら研究費を集めてきたかということが重要な評価項目になります。お金を集めるんでしたら、皆さんご存知のとおり、バイオだとか、燃料電池だとか、ナノテクノロジーだとか、電子・分子レベルだとか、そういう話題性のあるテーマに絡まなければ研究費が付かない。当然ながら、学生のカリキュラムのコマ数や内容も、鋳造や鉄鋼材料がなくなって、せいぜい合金工学が残っているくらいで、あとは量子力学だとか、分子・原子だとか、バイオだとか、DNAだとか、そういうのを教えないと学生が来ない。学生が来ない学科は要りませんということになりますから、大変申し訳ないですけど、ものづくりを担う人材を育てる学科を目指したら、我々は職を失い兼ねません。
桃野: 室蘭工大はですね、またちょっと旧帝大とは異なって、スタッフは研究がすべてではなくて、その他に地域貢献、あるいは地域密着型の活動というのが、評点としては高いということがあります。そういう点では、大学が担うべきところというのは重要かなと、私は考えています。今までの野口先生の話題でもありましたけれども、独法化した後はドラスティックに大学も変わってきていて、その中で学長の権限というのが強くなって、学長のキャラクタによって変わってくるんです。私は今回、人材育成事業に関わって、学長に縷々説明するチャンスが生じたので、「鋳物とは」から始まって、かなり詳しく説明をしました。そうしたら鋳物ファンというか、かなり鋳物のことに理解を示してくれまして、この前は、ある会社の役員の方に薄肉鋳鉄の宣伝までしてくれました。人材育成という視点、あるいは、地方大学がどうやって生き抜いていくかという点では、非常に大きなヒントを与えてくれたプロジェクトでした。やはり北大の目指す方向、担うべき分野と段々分かれてくるのかなと考えています。 高専というのはですね、そういう中では、ちょうど次の世代というんですか、高専の指針というのは、経済産業省の指向を非常に強く受けるんですが、それは“担い手”としては、非常にいいと思うんですね。一方で、北大のような大学がある。それらの間が無いとまた困ってしまう。ですから地方大学はそれらをつなぐ地域の意味合いは出てくるのかなと強く思っています。やはり、この人材育成プロジェクトが終了するであろう2年後に向けて、早急に大学としてそういうものづくりの現場にいる人たちの生涯教育、中核人材育成というものを、やはり継続的にやるというのが室工大の理解です。
鴨田: 室蘭工大は“実践型の大学”という特色を出していくということを打ち出しているんですね。
桃野: そうですね。北見工大は、早い時点から教育に専念しますというメッセージをマスコミ等に対して宣言しました。北大はやはり研究主体。室蘭工大はそうした間で、埋没しそうだったんですけれども、辛うじて、この中核人材育成プロジェクトの事例を見ながら、少し目が醒めたという視点は否めないですね。
東川: この事業をやろうということを考えた時に、何を思ったかというと、やはり、人を介して、大学と企業、もしくは地域というのがつながれるようにと。ここで勉強した人は、多分、どこかの企業に入る、また困ったときには大学に通えるようにする。そうするとまた、地域と企業、大学と企業がつながっていって、そのつながりというものが切れない。人を介して本当の意味での産学連携というものができるのではないだろうか、という意識が常にありました。だから、やっとその人を介して共同研究もできるだろうし、その人がまた後輩なんかを送り込むかもしれないし、大学の先生からみていい人に会えるかもしれない。いろんなことが起こるかもしれない。そこで、一つ室蘭で室蘭工業大学に専門職大学院みたいなものができるとすると、わかりやすい。大学にとっても、共同研究を行うについても、企業側のニーズを研究の中にフィードバックできるだろう。本当の意味でエンジニアリングをやってることになるのではないかなという気はしています。 特に北海道はそういう意味で、そこを強くすれば、北海道はまだまだやること、勝負できるのではないかな、という感じがしています。
東川: 先ほど、人材育成の担い手としての高専への期待が話されましたが、高専の先生方は大変だと思います。15才からの生徒を相手にしているので、いわゆる生活指導等でかなりの負担を強いられているようです。動ける人材を配置して、地域企業との連携が可能な体制を整備する必要があるように思います。
井上: 昔の15歳とは違いますからね。
桃野: 今日は欠席しましたけれども、うちのところの清水先生なんかの話を聴くと、生活指導担当になると、もうそれが主になってしまう。
井上: パパの役割もさせられるわけですね。
桃野: 大学では、ちょっと考えられない苦労があるようですね。
井上: 井上 高専の歴史は40年くらいになるんですね。それから小樽には銭函に職業能力開発大学校がありますね。2年間のなかで6割が実習なんですね。我々はそこに目をつけるんです。高専とポリテクを見ていて「いい子がいたらまわしてください」と。いま、高校・中学では
桃野: 人材育成ということで、今年は室蘭で小学校、中学校、高校の教育に関連した全道的な取り組みに関わっているのですが、小中高で、まず、高校の方から申しますと、高校の問題点はですね、高校で物理を選択する生徒数が20%を切りそうだ、あるいは切っているんですね。
井上: 物理以外で何を選択するんですか?
桃野: 生物あるいは化学ですね。
野口: いま、化学1科目で大体の理工科系は受験できますから。
桃野: 今のマスコミの影響が非常に強いですから。そうしますとね、工科系で物理が選択ですよというと、もうそこで8割は除外されるわけですよね。そういう大きな問題があります。中学校では、昔は技術科と家庭科とを教える先生がそれぞれいたんですけれども、今はそれが一体化してしまいましたから、一人の先生が両方を教えるわけです。そうすると女性の先生は一生懸命勉強しますから合格率が高くなっていって、女性の先生が増えてくる傾向にあります。そうするとどうなるかというと、技術科を教えるときに手作りが苦手の方が多いですから、それはキットを買ってこなすんですね。キットは、それはやった気はするんでしょうけれども、創造性は失われますね。そういう問題がある。それで、室蘭市はこういう取り組みをしているんですね。教育委員会が主体となって、我々の鋳物によるものづくりを応援してくれるんです。 いい例が、日本製鋼所さんの子弟の多くが御前水中学校というところに通っているんですけれども、どうしてるかというと、まず、お父さんの職場を訪問してみようということで、全学年47名がそろって日本製鋼所を見に行くと、解説者としてお父さんがいるわけです。それで、そこに就職するにはどうしたらいいかということで、室蘭工業大学に見学に来るわけです。ただ見ただけではわからないから、ものづくり実習させてくださいということで来るわけですね。そうすると、清水君たちが一生懸命大学の1年生たちと交流させるわけです。鋳物作りを実践させるわけです。そうすると、子供たちの目の輝きも違ってくるわけです。それを、市の教育委員会が仲立ちをしてくれましたが、今は室蘭市から委託をされる形で受けています。こういうシステムを、もう少し、全道的に広がっていけば、ゆくゆくは日本のものづくりも変わってくるのではないかなと思います。一地域だけでなく、全道的にやれば、ひたひたとステップアップが図られていくのかなと思います。
井上: やはり、変化させるには、周りからやるのが一番ですね。
桃野: 鉄鋼協会では、ものづくり教育というのは高校の理系の先生を教育して、1泊2日で工場、日本製鋼所とかで体験学習とかやるんですけど、どうもそれでは、靴の外から足を掻いているような感じで、なかなか直に反応がないんですね。昔は“社会見学”だとか“工場見学”というのがきちんとあったんです。今は無いんです。それは、いろんな意味があるんですけれども、まあカリキュラムが逼迫していることもあるし、危険なところにはなるべく近寄らせないとか。そういう中で「なるべく高校生を製造現場に呼ぼう」という取り組みがなされようとしています。そういうことに学会は支援をしようということで、そういう、八方手を尽くして、少しずつレベルアップしていくというのが、なんとなく期待している方向かなと思うんですけれども。
井上: 私どもも、この10年来、高校とか高専とか、短大などからインターンシップをどんどん受け入れています。今年、申込みがあったのは、小樽工業高校で7人か8人ですね。
桃野: 3日間くらいですか? それに関わる費用、人件費もかかるでしょうし、対応する人は大変ですね。
井上: それは、時間空いている連中がそれをやるんで。それから、管理者というのはそんなことをやるのは当たり前だというそんな雰囲気になってきたから。大学生の場合は長くて2週間ですね。高専もそのくらいかな。うちは、就職とはリンクさせてないですから、就職は別です。
鴨田: 製造現場に入って、実際に鋳造をやらせるんですか?
井上: 危険なことはやらせませんけどね。3分の1ぐらいは座学ですから、教える方もある程度勉強しなければ、なりません。いい加減なこといえませんからね。それは教える方も勉強になります。
人づくり――国策への期待
野口: 外国から来た留学生について言えば、金属だとか機械に来るネパールだとか中国だとかの留学生は、本当に優秀なのが来るんですよ。恐らく、日本の学生と比べたら歴然と差があると思います。私がアメリカに行った時に感じたんですが、アングロサクソンはマテリアルをやらないです。ミシガンに行こうと、アイオワに行こうと、みんなそうなんですけれども、留学生しかいないんですよね。
井上: 日本もそうなっちゃった。
野口: 今そうなりつつある。そうすると、かつて自動車の先進国だったアメリカで鋳物も含めたものづくりや加工でまともなものができなくなってアメリカの自動車産業が日本との競争で優位に立てなくなった歴史を、今度は日本がトレースする恐れがあるんです。やはり、技術者の給与より銀行員の給与の方が20%も30%も高いというのは問題ですよね。ホリエモンを育てることも必要なんだろうけれども、国の施策として物を作るための基礎的な要素技術をきちんとやらなければ、国そのものが危ない。
東川: 近年、経済産業省はものづくり分野に力を入れております。具体的には、製造現場の中核人材育成事業やものづくり日本大賞の創設です。来年度の予算要求においても、ものづくり関係施策のプライオリティが高くなっております。サポーティングインダストリーといって、情報家電や燃料電池など先端的新産業分野を支える産業への施策展開を予定しています。具体的には、鋳造、鍛造、プレス加工、めっき等々、ものづくりの基盤となる技術を対象に研究開発、税制や金融の優遇措置を考えているようです。この様に、ものづくりへ産業への支援強化が時流となっていることを判って頂きたいと思います。
井上: 第一にするべきは何かということで、いつも言うんですけれども、一つは「中小企業第一」、もう一つは「ものづくり第一」。
津村: 我々、鋳物業界は中小が多いですし、材料費が上がって10%も稼いでいるところはありません。業界としては儲からない業界ですので、儲かる業界との差を埋めることを、わがままですけれど、行政で面倒をみてもらえるとありがたいですし、人材育成といっても給料が安いなかで人が来なければどうしようもないです。来た人にお金が払えなければ優秀な人に来てもらえないですよね。そういうところにまで、踏み込んでもらえると、ありがたいと思うんですけど。まあ、行政がそこまで踏み込めるかというと、難しい問題かと思いますけれども。
井上: 誘導政策というのはできますね。今回の中核人材育成事業がまさにそうですけど。
東川: そうですね。「ここが大事ですよね」ということを明確にして、見せてゆくことが大事だと思います。アナウンス効果とでも言いましょうか。国が政策として取り組み、その効果をあげ、それを説明してゆくことが大事ですね。
井上: それと、いまアメリカ、ヨーロッパとかで知的財産権の問題があるんですけれども、これもものづくりがあって初めて“知的財産”になるわけですよ。
桃野: それに付け加えさせていただければ、こういうプロジェクトが経産省の主導で続くとも思えないんですよね。やがて大学でコースができても永続的にやっていくためには、人を出す側も、やはり中小の企業が多いですから、一人でも二人でも製造現場から欠けると大変な負担になるわけです。そういうことに対して、短期間でもいいですから、企業に対して支援体制があると、大学も非常に説得力をもって呼びかけることができる。また、そういうのが呼び水にもなる。何年かの取り組みということを念頭に置くと、そういうことが必要になるんじゃないかなと思います。
井上: 具体的に言うと、お金ですよ。
桃野: お金ですね。そういう生涯教育を企業側が推薦して人を大学に送り込んだ場合には、奨学金というような形で、まあ有利子でもいいんですけれども、これはやはり大事なことで、勤務時間を定時に終えてともかく駆けつける、交通費も自前でやれるということになると、ある程度の資金援助がないと、動きにくいですね。そんなのを、短期間でもいいですから、考えてもらいたいですね。
井上: 大体ね、社内で抵抗を受けるんですよ、一番初めはね。人を抜かれるところの係長はとんでもないということになるんです。「それは、こういうふうにして薄めることができるよ」って納得してもらわなければならない。
桃野: 今日の予定していた時間がかなり超過してしまいました。皆さんも予定がおありと思うんですけれども、私の時間配分が大変にルーズで申し訳けございません。ご迷惑をおかけしました。最後に、多くの課題を話題にしてまいりました。野口先生にまとめていただければと思います。
21世紀の職人像
野口: 「鋳造技術の伝承」ということでお話をしてきましたけれど、一つは、真面目に一つ一つの要素技術をしっかりと身につけることを、ともかくやる「生活習慣」かな、そういうものの価値観というものを確実に伝承するということがまず必要です。世の中、段々ブラックボックス化していくんですね。そしてもう一つはシステム化の動きで、部分部分のエキスパートだけがいて全体が見えなくなるという傾向が感じられる中で、全体を見通す目というものの育成をきっちりやらなければいけない。ただ、最近の技術伝承では、明治、大正、昭和初期のようなものづくりの伝承をいくら主張しても、それは無理だろうと思います。ものづくりの伝承の中身に、やはり新しい物の見方を付け加えていくことが必要でしょう。その中で重要なことは、一つは基本的なサイエンスを、それからもう一つは“職人気質(かたぎ)”的なIT技術の利用 ―― 新しい「職人気質」というのはやっぱりコンピュータのシミュレーションなり、ベースのサイエンスなりを熟知できる、そういう職人気質でなければいけないと思います。 明治、大正のような職人気質もいいんですけれども、それだけでは通用しないし、それだけで若い人を惹きつけられない。そういう新しい職人像を作っていかなければいけない。それで、我々の大学が担わなければならない役割もあるし、桃野先生がおっしゃられるような地域に根ざした大学の責務もあるでしょう。高専のような役割も必要でしょう。鋳造関係では特に産官学の連携を益々深めていくことでまだまだいろんな可能性が出てくるだろうと思います。まとめになったでしょうか?
桃野: はい、ありがとうございます。最後にこの中で最も長く北海道の鋳物を見てこられた井上会長から、何かコメントをいただけないでしょうか。
井上: 私も鋳物をやってきましたけれども、基礎的な鋳造関係がおかしくなったら、産業がどうなるのかという思いがありますね。我々のような小さな企業でも、何千万という金額を出すのは無理でも、数百万円くらいの金を大学に出せるような環境を作らなければならないですね。株主に配当しなくても。「金を出す」という姿勢が、企業には必要だと思います。だって、考えてみれば、学生を頂いているんですから、それに対するお返しって、何ができるかといったらインターンシップだとかということもあるけれども、具体的には金を出さないと。そう思います。
桃野: ありがとうございます。今回の司会役、あまり統制が取れなくて申し訳ありません。話の流れが散漫になったかもしれませんが、数々のご意見をいただきまして誠にありがとうございました。また、今後ともよろしくお願いいたします。
文責:会報編集委員 戸羽 篤也